解 説

漁から戻らない父のことでクラスメイトにからかわれ、朝夕の仕事のせいで遊びにも勉強にも身が入らない少年ジョバンニは、周りから疎外され、あたかも幽霊のような存在として描かれている。星祭りの夜、居場所を失い、孤独をかみしめながら登った天気輪の丘で、銀河鉄道に乗り込み、親友カムパネルラと銀河めぐりの旅をしばし楽しむ。旅の終わりにジョバンニはカムパネルラに、どこまでも一緒だと誓うが、カムパネルラは消えてしまう。悲しみのうちに目覚めたジョバンニは、まもなくカムパネルラが命を犠牲にして友達を救った事実を知る。この瞬間、ジョバンニは銀河鉄道の旅が何を意味していたのか気づき、日々の犠牲のひとつひとつの総和が、カムパネルラと共に行くことに等しいと悟る。さらに父が間もなく帰ってくることを知らされ、勇気づけられる。こうしてジョバンニは星祭りの夜、幽霊であった自分と決別して、母の元に戻ったのである。

銀河鉄道の旅は、銀河に沿って北十字から始まり南十字で終わる異次元の旅であり、ふたつの十字架はそれぞれ石炭袋を持っている。石炭袋が一般に暗黒星雲だと知られるようになったのは最近のことであり、かつては天文分野の専門書でもしばしば「空の穴」と表現されていた。賢治は南北ふたつの石炭袋を冥界と現世を結ぶ通路として作品を構成したとされている。

南十字の天上に行かなかったカムパネルラの行方については、ブルカニロ編にふれ輪廻したという解釈や、母の記述にふれ、万物の母の元に帰ったという解釈など、様々に解釈されていて定説はない。

『銀河鉄道の夜』の成立には、賢治が盛岡高等農林学校在学時から親密な関係を築いた一年後輩にあたる保阪嘉内の影響が大きく関係していると考える研究者もおり、作品中の様々なモチーフに、20代の頃に賢治と嘉内とが二人で登山し夜を通して共に語り合った体験が色濃く反映され、登場人物の「ジョバンニ」を賢治自身とするなら、「カムパネルラ」は保阪嘉内をあらわしていると考える研究者もいる。ただし第4稿におけるカムパネルラのモデルは、賢治の死別した妹トシであるとする説がある。



注 釈

*1銀河のお祭(銀河の祭り)

盛岡市の舟っこ流しがモデルとされる。

*2星めぐり

宮沢賢治作詞作曲の歌「星めぐりの歌」のこと。

*3天気輪の柱

造語だが、具体的に何を指すか定説はない。墓場の入り口に設置される天気柱という説や、日没直後に発生する自然現象である太陽柱という説がある。

*4ケンタウル露をふらせ

銀河のお祭で唱えるまじないのようなかけ声。賢治の造語。射手座であるケイロンは人の生死を分ける医術に長けた人馬神。

*5ハルレヤ

作中の台詞。校本全集よりも前の全集では誤記とみなして「ハレルヤ」に校訂していたが、いったん「ハレルヤ」と書いて修正した箇所があり、賢治が意図したものである。また、賛美歌が出てくる場面では番号が記されていない。2次稿の段階では「主よみもとに近づかん」の歌詞が記された箇所があり、校本全集より前はそれに従って「306番」(賢治在世当時の番号。現行では320番)と書き加えられていた。

*6プリオシン海岸/クルミ/ボス

プリオシンとは地層年代のひとつ。 400万年~150万年前の地層であるが、当時は作中のとおり120万年前とされていた。賢治はプリオシン時代に属する花巻市郊外の北上川の川原をイギリス海岸と名づけて化石採取を楽しんでいた。ボスとはウシの一属の事を指す。賢治は1922年にこの川原でクルミの化石とウシの足跡の化石を発見していることから、この川原がプリオシン海岸のモデルと言われている。

賢治が採取したクルミの化石は後に日本における「オオバタクルミの化石」と同定され、賢治が実質上の第一発見者となった逸話が残っている。また、ウシの足跡は絶滅したプリスクス野牛 (Bison priscus)の一種であるハナイズミモリウシのものであることが同定されている。バイソン類は一般にボス(Bos) とは分類されていない。ただしバイソンをボスに含める考え方がないわけではない。

*7鳥を捕る人

物語中かなりの紙面を割いているにもかかわらず、具体的に何を意味するかは特定されていない。こぎつね座のキツネという説が有名である。その他大自然から貰ったインスピレーションを童話や小説にして糧にしようとする賢治自身とする説や、キリスト教で使用される聖餅(十字架の入った白い煎餅)を魂の鳥に見立てたとする説などある。

*8三角標

作品中、星々は三角標として表現されている。三角標とは、地形の測量に使用したやぐらのことである。測量技師であった賢治は、現代のVERAプロジェクトの到来をイメージしていたのではないかと言われている。



本文のテキストは青空文庫のものを使用。(図書カード:No.456、作品名:銀河鉄道の夜、著者:宮沢 賢治、文字遣い種別:新字新仮名http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card456.html

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解説・注釈は Wikipedia の記事を使用。



初版……平成二三年六月八日 webkit r88234(Windows)にて検証


二版……平成二三年六月二十九日 webkit r89815(Windows)にて検証